- 五小保護者でも山大生でも、災害時に助けを求めることができる知人の数は少なく(「市内にいない」が約2割)、親族か大学の友人・知人のネットワークを頼りにしている人が多いのが現状です。このため、災害時にはキャンパス周辺で孤立する住民や学生が生じる可能性があります。
- 災害時の備えの実行率は、「避難場所の確認」を除けば、五小保護者で3割前後、山大生では2割前後です。被災地である宮城県出身の学生でも一人暮らしだと実行率が低くなっており、備えを促す必要があります。
- 五小保護者、山大生ともに、精神的な悩みの相談相手として友人や知人(保護者の場合は職場の同僚)を挙げていました。全体の1割の方は相談相手が誰もいないと答えていました。相談窓口としては、「山形いのちの電話」以外の公的機関の知名度が十分ではありませんでした(1割未満)。大学生には「なんでも相談コーナー」や「保健管理センターの学生相談室」の知名度が高いこと(6割程度)がわかりました。
- 山形市の住民(五小保護者)に対して実施したアンケート調査と、山形市役所の防災担当者からのヒアリング調査をもとに、防災情報の入手と発信に関する現状を比較して、課題を明らかにしました。
- 入手側(住民)はテレビやラジオの公共放送やインターネット上にある防災情報を入手しようとしているのに対して、発信側(山形市)は緊急速報メールやSNSに防災情報を流して、住民に災害情報を届けようと考えており、両者の行動に差異があります。迅速な防災情報の入手と避難行動につながることから、住民が防災情報にアクセスしやすい環境を整えるとともに、日頃から防災情報の入手を促進させる必要があります。
- 児童の安全・安心を考える保護者の空間リスク認知は、詳細であるものの、自宅周辺に偏る傾向があるため、小学校周辺や通学路の安全安心については、保護者間そして小学校との情報共有が必要になります。情報共有の場として、学内行事やPTAは重要な意味を持っていると言えます。
- 注意力や視野に関して、大人と子供には大きな差があります。保護者の空間リスク認知は詳細ですが、実際に通学する児童の安全安心を確保するためには、地域全体で子供を見守ることが重要です。
- 山大生の振る舞いに関する不安経験として、五小保護者の約4割が「自転車の運転」、「騒音」、「歩行時のマナー」をあげていました。これらの項目は2013年度の調査でも指摘されており、慢性化しているようです。山大生による回答予想でも同傾向であり、山大生自身も地域の方にとっての迷惑行為であると認識しているようです。
- 大学生による地域活動が子育て家庭の福祉を向上しうるかを検討しました。五小保護者の多くが、山大生に子どもを相手とする地域活動を期待していました。なかでも、非親族による育児サポートを利用できる可能性がない保護者がより期待していることがわかりました。小学生の保護者、とくに非親族による育児サポートが脆弱な保護者の福祉は、大学生に子どもの相手を頼ることで向上する可能性があると考えられます。
山形大学周辺の小学校の保護者(2018年12月)および山形大学の学生(2019年1月)を対象とするアンケート調査を行い、山形大学人文社会科学研究年報第18号に特集号論文としてまとめました。以下はその概要です。
特集 地域社会における安心・安全に関する学術的研究
目次
1. 本研究プロジェクトの概要
2.「山形大学周辺における暮らしの安心・安全に関するアンケート(2018)」調査の概要
3. 災害時のネットワークと災害への備え:山形大学近隣小学校の保護者と大学生の調査より(阿部担当)
・ 人文社会科学部研究年報:第18号 特集号論文:リンク先